田舎と季節のある暮らし  〜あぜ道のある風景2011〜




            
                
 第8話 耕す者〜メロディーとさつま芋〜

 農業共済新聞で「耕す者」と言えば農家である私達の事、と思いきや世の中、耕す者は私達だけではありませんね。日々仕事をしながら聞いているのがラジオ。ニュース、天気予報、地元の話題、そして歌。
 雨雲の流れが早い、もう日が暮れる。畑にはまだ積み残したさつま芋が幾畝も並んで、「もう濡らすしかないか・・・」と思っている時にラジオから流れる中島みゆきの「地上の星」。
あの気持ちを突き動かすようなイントロと共に「〜風の中の昴、砂の中の銀河、みんな何処へ行った〜」耳の奥に聞こえた時、「まだやれる」雨雲の流れより早く、日暮れよりも早く、あきらめている場合じゃないよ。もう一段、気持ちのギアが入るのがわかりますね。息子がまだ小学生だった頃、「オレ達の歌だ!」と夕暮れの畑で俄然働き出した事を思い出します。働く自分が俄かにプロジェクトXの働く技術者と重なったのでしょうか。二十一歳になった今はそんな事は叫ばないでしょうけどね。あの時、あの歌は、息子にとって労働歌で応援歌だったのでしょう。
 
苦しい時、嬉しい時、悲しい時、気持ちに流れる曲はどんな曲でしょう。サザンオールスターズ、福山雅治、忌野清志郎、加藤登紀子、井上陽水、イルカ。流れる曲に、時間をさかのぼり、かつての自分を思い出し、また歩き出すこともあるでしょう。彼らの仕事と私達の仕事は、出来上がった作品は違っても同じ作業をしているのだと思うことがあります。生みの苦しみも、継続することの難しさも、自分の経験と感覚を研いでゆく先に形が出来上がってゆくこともよく似ていると思うことがあります。
一流のアーティストでも私達以上に胃袋を満たす食べ物は作れないし、私達は彼らのように気持ちを満たすメロディーは作れない。でも、どちらが欠けても人にとっては困るものでしょう。持ち続けてゆきたいのは彼らのようなプロとしての強い気持ち。農業は地味な仕事だからつい自分の事を小さく見てしまいがちだけれども、心を耕し気持ちを満たすか、土を耕しい胃袋を満たすか。果たす役割は同じ、同じ。


                 農業共済新聞鹿児島版  2011.11.掲載


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