第9話 ゆく年くる年
早いもので、年の瀬。この原稿が掲載される頃は、年越しの準備が目の前に迫っているでしょう。私よ。年賀状の宛名書きは済んでいるでしょうか。障子の張替えはまだでしょう。いつも本当に押しせまってから慌てるのは目に見えているのですから。
歳時は変わることなく繰り返されるのに、今年ほど気持ちだけがザワザワと揺さぶられた年はありませんでしたね。暮らしが激変する災害、原発の不気味さ、国内政治も海外の情勢もほっとさせる出来事は本当に少なく、私達は、「いかにも危うい、不確かな物の上に立っているに過ぎない。」という現実を思い知らされた年でした。
この暮れ、大学に通う息子から「震災からこちら人員削減が厳しくなって、バイトが減った」と言ってきました。「もう一つバイトを増やすから正月は帰れない」と。うーん。こんな所にも・・・・・。と思いながら、「何言ってんの。学生のバイトなんてそんなもんだよ。焦らんでいいからボチボチね」とカラ元気を出してみても心寂しい物があったのは確かです。
最後の最後まで不安要素満載の年の瀬に、こんな年だったからこそ、暮れの準備はいつも通り、餅をつき、正月飾りを飾ろうと思いました。ただし、飾りは一回り小さなものに。飾るのは無事に年が越せることへの感謝。小さくするのは今年、災害に遭われた方々へ気持ちのお捧げ。大晦日にはストーブの上でコトコトと子ども達の大好きなぜんざいを作りましょう。寒い冬、暖かく年を越した思い出がこれからの子ども達を支えてくれるよう。息子には餅と米を送りましょう。「バイトを探すのも若いときの楽しみ。」と憎まれ口の一言でも書き添えてやりましょう。
年が明けたらまた、元気に畑に出ましょう。地下足袋をきゅっと履き、防寒着を着込み、新しい気持ちで畑に入りましょう。やらなければいけない事が見えていれば大丈夫。安心して年を越してゆけるでしょう。
ゆく年くる年。
皆様どうぞよき年になりますよう、幸せ多き年になりますよう、心よりお祈りしつつ今年の筆を置きたいと思います。ありがとうございました。
農業共済新聞鹿児島版 2011.12.掲載
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